昨今、企業の情報漏洩事件が後を絶ちません。その影響は深刻で、財務的損失だけでなく、信頼の失墜や法的制裁にまで及びます。デジタル化が進む中、サイバー攻撃の巧妙化や内部脅威の増加により、情報漏洩のリスクは日々高まっています。本記事では、IT担当者が知っておくべき最新の脅威と、効果的な対策をチェックリスト形式で紹介します。
情報漏洩の主な原因とは?内部脅威と外部脅威
情報漏洩は企業に深刻なリスクをもたらし、その影響は財務損失から信頼喪失まで多岐にわたります。ここでは、主に内部脅威と外部脅威の二つに分けて紹介します。
原因①身近に潜む内部脅威
内部脅威は、従業員や関係者による意図的または非意図的な行動から生じる、企業にとって身近で予測しにくい脅威です。よくある例は以下の通りです。
・社員による不正持ち出し
社員による意図的な情報の不正持ち出しは、企業の機密情報や顧客データの流出につながり、甚大な損害を引き起こす可能性があります。内部で発生するため、発見が遅れがちです。
・ユーザーの誤操作
従業員の不注意や知識不足による情報の過剰共有は、意図せず重要データを外部に露出させてしまう危険性があります。クラウドサービスの誤った設定やフィッシングメールへの対応ミスなども含まれます。
原因②サイバー攻撃による外部脅威
外部脅威は、主に悪意のある第三者によるサイバー攻撃で、技術の進化とともに手法も巧妙化しています。主な例は以下の通りです。
・不正アクセス
パスワード解析やフィッシングなどの手法を用いて企業システムに侵入し、機密情報を盗み出す攻撃です。IoTデバイスのぜい弱性を狙った攻撃も増加傾向にあります。
・ランサムウェア
企業データを暗号化して身代金を要求する攻撃で、近年では二重脅迫型など、より悪質な手法が増加しています。感染経路も多様化し、メールだけでなくRDP(※1)などのリモートサービスを狙うケースも増えています。
※1 RDP……Remote Desktop Protocol。マイクロソフトが開発した、リモートデスクトップを実現するために使われる通信プロトコルの一種
・データの持ち出しと改ざん
データの持ち出しや改ざんは、長期間気づかれないまま継続する可能性があり、発見が遅れるほど被害が拡大します。これらの攻撃は、企業の知的財産や競争力に直接的な影響を与える可能性があります。
重大な情報漏洩の事例紹介
近年、企業を揺るがす重大な情報漏洩事件が相次いでいます。ここでは、内部不正と外部攻撃による代表的な事例を紹介します。
事例1:不正持ち出し事例
2023年、大手通信会社子会社における内部不正による情報流出が発生しました。これは、元派遣社員がシステムの管理アカウントを悪用し、顧客情報が保存されたサーバーに不正アクセスしたことが原因でした。
その結果、約900万件もの顧客情報が流出し、顧客の氏名、住所、電話番号などの個人情報が外部に漏えいしました。大規模な個人情報流出は、会社の信用を大きく失墜しさせ、さらに情報が名簿業者に売却されたことで二次被害のリスクも生じました。また、再発防止策の実施に伴い、多大な経済的・時間的コストが発生しました。
この事態を受け、企業はアクセス権限の厳格な管理と定期的な見直し、重要情報へのアクセスログの監視強化が不可欠となりました。加えて、派遣社員を含む全従業員への情報セキュリティ教育の徹底や、内部不正検知システムの導入検討も重要な対策となるでしょう。
事例2:ランサムウェア事例
2022年に大手自動車メーカーサプライチェーンへのランサムウェア攻撃が発生しました。メーカーと外部企業とのリモート接続機器の脆弱性を狙われ、サプライチェーン企業システムにランサムウェアが侵入したことが原因でした。
幸いにも社内外の機密情報の流出は確認されませんでしたが、サーバーやパソコンの一部でデータが暗号化されました。またこの攻撃により、自動車生産が一時停止し、1万3千台以上の生産に遅れが生じました。さらに、システム復旧に約1カ月を要したことで業務に多大な影響を及ぼし、製品供給の遅れによる社会的信用の低下も避けられませんでした。
今後の対策としては、サプライチェーン全体のセキュリティ強化、特にリモート接続部分の見直しが急務となるでしょう。また、定期的な脆弱性診断と迅速なパッチ適用、ランサムウェア対策を含む包括的なインシデント対応計画の策定、そしてバックアップ体制の強化と定期的な復旧訓練の実施が、必要不可欠な対策として挙げられます。
これらの事例は、内部脅威と外部脅威の両方が企業に深刻な影響を与え得ることを如実に示しています。
会社を危険に晒さないための対策は?情報漏洩リスクチェックリスト
効果的な情報漏洩対策には、内部脅威と外部脅威の両方に対応した包括的なアプローチが不可欠です。以下のチェックリストを活用し、自社の対策状況を確認してみましょう。
内部脅威対策チェックリスト
自社の内部脅威対策をチェックしてみましょう。以下の項目を確認することで、組織内部からの情報漏洩リスクを最小限に抑えるための重要な施策が十分に実施されているか確認できます。
☑︎機密ファイルの管理は適切に行われているか
機密ファイルの所在や数量を把握し、適切なアクセス制御と暗号化を実施することで、不正な情報流出のリスクを大幅に低減できます。
- 機密情報の分類基準と取扱規程の策定
- 機密ファイルの所在や数量の正確な把握
- 暗号化やアクセス制御の適切な実施
- 定期的な管理状況の監査と見直し
☑︎アクセス権限は適切に設定・管理されているか
必要最小限のアクセス権限を付与する「最小権限の原則」を徹底し、定期的な見直しを行うことで、内部からの悪意のあるデータの持ち出しや、改ざん、誤操作による情報漏えいのリスクを軽減できます。
- 「最小権限の原則」に基づく権限付与
- 定期的な権限見直しと不要なアクセス権の削除
- 特権アカウントの厳格な管理と監視
- 従業員の異動・退職時の速やかな権限変更
☑︎従業員向けのセキュリティ教育は定期的に実施されているか
定期的なセキュリティ教育や啓発活動を通じて、従業員のセキュリティ意識を高め、人的ミスによる情報漏洩を防止することができます。
- 全従業員を対象とした定期的な教育の実施
- 役職や部署に応じた特化型トレーニングの提供
- 最新の脅威動向に関する情報共有
- フィッシング訓練など、実践的な演習の導入
外部脅威対策チェックリスト
次に、外部からの脅威に対する防御策をチェックしましょう。サイバー攻撃などの外部脅威に対して、適切な対策と迅速な対応ができる体制が整っているか確認します。
☑︎セキュリティソフトは最新の状態に保たれているか
最新のセキュリティソフトウェアを導入し、定期的に更新することで、新たな脅威に対する防御力を維持し、サイバー攻撃のリスクを軽減できます。
- セキュリティソフトの定期的な更新
- OS・アプリケーションのぜい弱性パッチの適用
- ファイアウォールやIDS/IPS(※2)の適切な設定と運用
- エンドポイント保護の強化
※2 IDS/IPS……IDSはコンピューターネットワークに対して不正アクセスや異常な通信があることを通知する不正侵入検知システム。IPSは異常な通信を通知した上で、通信をブロックする不正侵入防御システム。
☑︎データのバックアップ体制は整っているか
重要データのバックアップと、バックアップデータの安全な保管・管理を行うことで、ランサムウェア攻撃などの際にも迅速なデータ復旧が可能になります。
- 重要データの定期的なバックアップ実施
- オフラインバックアップの保管
- バックアップデータの暗号化
- 復旧テストの定期的な実施
☑︎インシデント対応計画は策定・更新されているか
事前に詳細なインシデント対応計画を策定し、定期的な訓練を実施することで、セキュリティ事故発生時の被害を最小限に抑え、迅速な復旧が可能になります。
- 詳細な対応手順の文書化
- 役割と責任の明確な定義
- 定期的な訓練と計画の見直し
- 外部専門家や法執行機関との連携体制の確立
まとめ: 明日からできる情報漏洩対策で自社の財産を守ろう
情報漏洩は、内部脅威と外部脅威の両面から企業を襲う深刻なリスクです。本記事で紹介したチェックリストを活用し、自社のセキュリティ状況を客観的に評価することが、効果的な対策の第一歩となります。
重要なのは、一度の対策で満足せず、継続的にリスクを認識し、対策を更新していく姿勢です。技術の進化とともに脅威も変化するため、定期的な見直しが不可欠です。明日からでも始められるアクションとして、まずは従業員教育の強化や、アクセス権限の見直しから着手してみましょう。また、バックアップ体制の確認やインシデント対応計画の策定も重要です。自社だけでの対応に限界を感じる場合は、外部のセキュリティサービスの活用もおすすめです。AvePointでもセキュリティソリューションを提供しています。(自社のセキュリティ対策強化をご検討中のご担当者様は、お気軽にご相談ください。or 詳しくはこちらをご覧ください。)